<治療法について>

目次

<最初に伝えたいこと>

<医療者との関係性を見直す>

<はじめに>

<エンパワメントとコンプライアンス>

■従来のアプローチ(コンプライアンス=医師中心主義)

■エンパワーメント・アプローチ(患者中心主義)

    

  

<最初に伝えたいこと>

■糖尿病は「自己管理の病気」です

糖尿病は「自己管理」が基本の病気です。つまり、「まず患者さんが可能な限りライフスタイル修正、食事療法、運動療法を行って(自分なりのベストを尽くしてみて)、それでも十分な効果が現れない場合に、仕方なく、やむを得ず、薬物療法を開始する病気である」ということです。だから、効果が現れてきたら、可能な限り薬は中止したいということです。治療に果たす薬の役割が、他の病気とは随分異なっていることを強調したいと思います。のち章のタイトルに「薬に頼る」という表現を使ったのはこのような理由によります。だからといって、糖尿病が良くならないのにいたずらにいつまでも、薬物療法を毛嫌いするのも良いこととは言えません。安易に薬に頼って生活改善をしない人、糖尿病が良くならないのにいつまでも薬を飲みたがらない人、どちらも困ります。合理的で、バランスのとれた考え方を心がけましょう!

蛇足ですが、先ほど述べた「自分なりのベストを尽くす」ということの意味も重要です。「マイベスト」の内容は、人によって一律ではないからです。担当医との話し合いの中で、予め自分の弱点を伝えておくことはとても重要です。例えば、「私は運動を取り入れることは得意ですが、お酒は減らせません」「ご飯の量を減らすことはできますが、間食がやめられなくて・・」。このように自分のできること、できないことをはっきりと伝えておくと、不思議なことに、苦手なはずの課題を克服しやすくなることを、私はこれまでの療養指導体験の中で経験しています。担当医とは「弱みも強みもすべて理解してくれる関係を構築しておくこと」が重要なのかも知れません。

<医療者との関係性を見直す>

<はじめに>

1人ひとりの患者さんに対するオーダーメイド治療に対する私の考え方についてはすでに「ABOUT DIABETES」の中で述べました。このページでは「1人ひとりの患者さんの病態に則した治療計画の立て方」についてお話ししたいと思います。エンパワーメント・アプローチにおいては「治療方針を決定するのは、医師ではなく、常に患者さん自身であるべきだ」「私たち医師は十分な情報を提示して、患者さんの正しい自己決定を助ける役割を担うべきである」と考えます。治療について述べる前に、まずエンパワーメント・アプローチ(患者中心主義)とコンプライアンス(医師中心主義)について述べたいと思います。

つまり、エビデンスでは証明が難しい「医療者との関係性の重要性」についての説明です。ネット上には「糖尿病に関する情報」はたくさんありますが、知識を増やすだけで糖尿病が良くなるわけではありません。

<エンパワメントとコンプライアンス>

■従来のアプローチ(コンプライアンス=医師中心主義)

コンプライアンスとは「患者が、医師から指示された内容をどれだけ守れるか、実行できるか?」ということを重視する考え方です。こうしたアプローチのことを、別名「医師中心医療」とも呼びます。この論理では「糖尿病が良くならないのは、患者の努力不足、あるいは病識不足」という言葉で還元されてしまいます。でも本当にそうでしょうか?

○コンプライアンスに基づく医療を受ける糖尿病患者の立場

このような考え方の医師の診療を受けている患者は、診察を受けるたびに「いつも自分が責められているような感情」を拭い去ることができません。いつも採血結果にビクビクしてしまいます。そして検査結果が悪いと、なぜか医師に対して申し訳ないような気持ちにさせられます。でも実は、こうしたアプローチで苦しんでいるのは患者だけではありません。

○コンプライアンスに基づく医療を施す医師の苦しみ

こうした医師-患者関係というのは、実は医師にも大きなストレスを生み出しているのです。なぜでしょうか? 彼らの考え方はこうです。つまり、「医師は常に専門的知識と客観的な判断力をもった存在である。従って、患者は、そうした医師の指示に従うことによって、疾病をよく管理していくことができる」。

このような伝統的な医学教育を信じている医師にとって、自分の指示に従うことができない患者に対して、受け入れがたい感情を抱くものです。「俺がこれだけ頑張っているのに、なぜできないのだろうか?」「なぜ、俺に嘘をついて間食をしたり、酒を飲んだりするのだろうか・・・?」と苛立ちを感じます。

あるいはまた、患者が自分の指示に従ってくれないことで、患者から医師としての自分が信任されていないと感じ、苦しむ場合もあるかと思います。そして「患者の糖尿病が良くならないのは、自分の責任である」「自分の能力が不足しているから、患者からの信頼を勝ち取れないのだ」と自分を責めたりします。

このように医師中心主義を標榜する医師は、一生懸命になればなるほど、それを威圧感と感じる患者の抵抗に出会い、患者との溝はなかなか埋まりません。「糖尿病患者なんて、所詮そんなものさ! 患者が悪いんだから仕方ないさ!」そう割り切ることが出来る医師はストレスの感じ方がいくらか少なくて済むのかも知れませんが、誠実な医師はかなり落ち込みます。こうした誠実な医師たちによって誕生したのが「エンパワーメント・アプローチ」なのです。

■エンパワーメント・アプローチ(患者中心主義)

エンパワーメント・アプローチの3原則

1)患者の自律性:最終的には「患者が責任を負う」

2)インフォームド・チョイス(十分な説明と同意)

3)協力:医療者は患者と協力しながら、ともに問題解決を図る。

コンプライアンスは「医師が糖尿病患者を管理する」と考えます。

しかし、エンパワーメントは「患者が糖尿病を管理する」と考えるのです。

つまり、医療者は患者と一緒に、その問題解決のお手伝いをすれば良いのです。

とてもシンプルな考え方です。糖尿病が良くならなくても誰も責められません

平成17年の日本糖尿病学会総会にシンポジストとして招待された故河合隼雄先生は、会場に集まった医師、看護師、栄養士に対して、とても分かりやすい表現で、次のように述べられました。

「上からものを言ったらダメだ!」

「だいたい、上からものを言って、つまり正しいことを言って、やらない奴が悪い、自分は悪くない」

「そんな考え方をしていたら、患者の糖尿病は良くならない」

「患者の糖尿病が良くなったら嬉しい」

「でも俺が治してやろうと思ったらうまくいかない。このバランスが難しい!」〜河合隼雄〜